【エンジニア】円満退職のコツ—去り際が未来のキャリアを左右する理由

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IT業界は人材の流動性が高く、転職や退職は日常茶飯事です。

エンジニアとしてキャリアを築く中で、複数の企業を経験することは珍しくありません。ですが、その「去り際」の振る舞い次第で、将来のキャリアが広がることもあれば、逆に選択肢を狭めてしまうこともあります。

退職は単なる終わりではなく、次のスタートにつながる大切なタイミング。だからこそ、円満退職は「他人のため」ではなく「自分の将来のため」にも欠かせないプロセスなのです。

ここでは、残念な退職例や業界特有の狭さ、古巣との関係維持のメリット、短期離職時のアルムナイ活用、実務面での注意点、SNS時代の発信方法までを整理し、円満退職のコツを紹介します。

久松さん

監修者プロフィール

合同会社エンジニアリングマネージメント 社長
久松 剛さん

慶應義塾大学大学院政策メディア研究科博士(政策・メディア)。2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。合同会社エンジニアリングマネージメント社長兼レンタルEM。ベンチャー企業3社にてIPOや組織改善コンサル、PjMなどを歴任後、2022年に合同会社を設立。
現在はスタートアップから日系大手企業まで企業規模を問わず、採用や組織改善コンサル、セミナー、執筆など幅広く活躍中。

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残念な退職例とそのリスク

後悔している男性

退職の話題でよく耳にするのは「あの人、いつの間にかいなくなっていた」というケースです。引き継ぎも挨拶もなく、社内チャットから突然アカウントが消えていたという話もあります。

リーダーやマネージャーを務めていた人が無言で去ると、残されたチームに大きな混乱をもたらします。

引継ぎ不足は論外

さらに深刻なのは引き継ぎ不十分によるトラブルです。

「実装完了」と報告されていたシステムが退職後に動かしてみると設計を無視していて、大幅な修正が必要になった事例もあります。炎上していたプロジェクトでこうした事態が起きれば、後任の負担はさらに増し、信頼を大きく損なうことになります。

過去に遭遇した例ですが、Aさんのリファラル入社で入ったBさん。プロジェクトの大変さも相まってBさんは短期離職してしまいました。この際、「担当箇所は全て実装済み」と報告されていたのですが、実際は手付かずだったという話があります。アウトプットの管理など、ツッコミどころは多くあるのですが時すでに遅し。責任を感じたAさんが巻き取る形で実装を担当していました。

百害あって一利なしの退職エントリ

近年増えているのが退職エントリです。

ブログやSNSに「どれだけ酷い会社だったか」を書き残す人もいます。一時的に注目を集めるかもしれませんが、数日で削除するパターンが多いのも事実。後から法的リスクや社会的評価の悪化に気づくからです。

退職時に溜め込んだ不満を吐き出したい気持ちは理解できますが、その後のキャリアにマイナスとなるリスクも考慮する必要があります。

私自身、仕事柄退職エントリの裏取りをすることがあるのですが、会社が悪い場合はあるものの、書いた本人に問題があることが少なくありません。自己ブランディングの観点からも、一切お勧めできません。

また、次の会社での入社時エントリで前職をサラリと非難する方も問題です。「この会社を選んだ理由は、前職では○○だったからです」などと、しれっと非難が交じる場合もあります。まず前職の面々にはバレていると思って良く、距離を取られるリスクがあります。

IT業界は狭い—再会リスクの現実

IT業界では、「もう二度と会わないだろう」と思った相手と意外な形で再会することがよくあります。

典型的なのは取引先やパートナー経由での再会です。古巣の取引先が次の職場だった、あるいは転職先の取引先に古巣が含まれていた、というのは珍しくありません。

M&Aによる企業統合も再会の可能性を高めています。かつて対立して辞めた同僚と、数年後に統合先の同じ部署で再び顔を合わせるケースもあります。

地理的な要因も無視できません。地方では企業数が限られているため、転職を繰り返すうちに評判が広がり、選択肢がなくなることさえあります。

都内であっても油断はできません。儲かっている企業は良いビルに入居する傾向があり、エレベーターホールで前職の同僚とばったり再会することもあります。スタートアップもWeWorkなどのシェアオフィスに入居することが多く、そこでも思わぬ再会が生まれます。

こうした「人間交差点」に遭遇するたびに、退職時の態度がどう受け取られていたかを痛感する人も少なくありません。

古巣との関係維持がもたらすメリット

退職後も古巣と良好な関係を保っていると、意外な形で役立つことが多々あります。

営業先やコラボ先として声をかけられることもあれば、セミナーや勉強会で一緒に登壇することもあります。特にフリーランスやスタートアップにとって、古巣は潜在的な顧客や協業先になりやすい存在です。

また、採用現場で一般化しつつあるリファレンスチェックでも、前職との関係性は影響します。

推薦を依頼するのは元同僚や上司ですが、信頼関係がなければ協力は得られません。依頼には手間と時間がかかるため、去り際が悪ければ選考のステップに乗れない可能性すらあります。

さらにアルムナイ(退職者ネットワーク)の活用が広がっており、再雇用や業務委託、共同イベントなどを通じて古巣と関係を維持する企業が増えています。アルムナイに参加しておくことで、将来の仕事や学びにつながるきっかけを得やすくなります。

私個人の例ですが、過去に在籍していた企業から講演依頼やお仕事を頂くことが多々あります。現場を離れて数年経っていても、当時の関係性がきっかけで声をかけてもらえるのです。

また、元同僚が転職先の企業で困ったときに「ちょっと相談したい」と声をかけてくれることもあります。信頼関係が続いているからこそ、こうした機会につながりますし、結果的に新しい仕事やコラボレーションの場が広がります。

実際、私の会社では約7割はそうした過去在籍企業や元同僚のつながりから生まれたご縁です。円満退職が単なるマナーにとどまらず、未来のキャリアの土台になることを、日々実感しています。

短期離職とアルムナイの扱い

短期離職、つまり数ヶ月で会社を去る場合でも、関係を完全に断つのは得策ではありません。

短期離職はネガティブに捉えられがちですが、去り際の対応を丁寧にすることで印象を和らげることは可能です。短い期間でも共に働いた事実は残り、数年後に再び接点を持つこともあります。

最近では短期離職者でもアルムナイに参加できるケースが増えています。実務での貢献度が低くても、情報交換やネットワーク維持の場としては十分に機能します。

特にIT業界はキャリアの転換が早く、今の縁が数年後に仕事のきっかけになる可能性は十分にあります。短期離職を理由にすべてを断ち切ってしまうのは、自ら可能性を狭める行為といえるでしょう。

円満退職のための実務チェックリスト

円満退職のチェックリスト

円満退職を実現するためには、感情だけでなく実務的な準備が欠かせません。

引継ぎ資料

引き継ぎ資料は単なる手順書ではなく、業務の背景や判断理由を含めてまとめましょう。後任が安心して業務を進められるよう、質の高い資料と引き継ぎの時間を確保することが重要です。

退職フローの遵守

退職日までのスケジュールでは、有給休暇の消化、社会保険や年金、税金の切り替え、貸与物の返却を計画的に行います。退職届や退職願は会社の規定を確認し、適切なタイミングで提出しましょう。

挨拶

挨拶も大切です。可能であれば対面で感謝を伝え、難しい場合はオンライン会議や社内チャットで最終メッセージを残しましょう。リモート勤務が当たり前になった今、オンライン送別会やSlackでの感謝の言葉が円満退職の鍵になることもあります。

SNS・情報発信の注意点

退職や転職の報告はSNSを通じて広まりやすい時代です。発信のタイミングは、現職への正式通知と関係者への共有が済んでからにするのが安全です。

前職への批判や機密情報の漏洩につながる表現は避け、できるだけポジティブな表現にまとめると良いでしょう。

SNSでの発言は長期的に残るため、後から見返しても問題ない内容にすることが大切です。特に転職先が発信を採用広報に利用することもあるため、今後のキャリアにマイナスとならないよう配慮が必要です。

まとめ

円満退職は形式的なマナーにとどまらず、キャリアを守るための戦略です。業界の狭さや人のつながりを考えると、去り際の振る舞いは予想以上に影響を与えます。短期離職であっても関係を維持し、引き継ぎや挨拶を丁寧に行うことで、将来の選択肢は広がります。

去り際の印象は長く残ります。挨拶や引き継ぎの一つひとつが、数年後のチャンスにつながることもあります。円満退職を意識し、自分のキャリアを守る「安全網」として活用していきましょう。

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