音楽の夢を追い上京し、来る日も来る日もアルバイトで生計を立てていた岡野さん。将来への漠然とした不安を抱えながらも、「働く」ということにどこか距離を感じていた彼が、30歳を目前にして見出した道とは?
介護派遣という働き方と出会い、キャリアに対する考え方だけでなく、生活、そして人生そのものが大きく変わった岡野大輝さん(35歳)に、その赤裸々な経験と心の変化を伺いました。彼の言葉からは、働くことの新しい価値や、自分らしい生き方を模索するヒントが見えてきます。
目次
プロフィール紹介
お名前:岡野 大輝(おかの たいき)さん
年齢:35歳
過去の職種:コンビニエンスストアでのアルバイト(夜勤含む)約10年、単発イベント
現在の職種:介護職(派遣スタッフ)
勤務先:東京都内の介護老人保健施設
勤務年数:4年
これまでと今
高校卒業後すぐ、18歳のときに地元秋田から上京した岡野さん。その目的はただ一つ、バンドでプロを目指すためでした。「夢に賭けるなら東京しかない」と信じ、貯金を切り崩しながらライブハウスに出演し、バンド仲間とシェアハウスで共同生活を送る日々。
働くことはあくまで「食いつなぐため」であり、キャリアや“ちゃんとした”働き方は「自分には関係ない世界」だと思っていました。夜勤は時給が高く効率的だと感じていたものの、睡眠時間はバラバラで、健康面では常に無理をしていたといいます。
しかし、20代後半になると、周囲の友人たちが次々と就職、結婚、出産といった人生の節目を迎えるのをSNSで目にするようになり、焦りを感じ始めました。生活も常に「家賃払って、最低限食べて、ギターの弦買ったらもうカツカツ(笑)。病気になったら終わりだなっていつも思ってました」と、経済的な不安と隣り合わせだったのです。
そんな岡野さんが現在、介護職の派遣スタッフとして安定した生活を送り、仕事に「やりがい」を感じるようになっているのは、まさに大きな変化です。かつては「音楽以外は全部手段」と考えていた彼が、今では「人のために働く」こと自体に価値を見出しています。彼は「『不安定』というより、『自由で可能性のある働き方』だと思っています」と、派遣という働き方を自身の意思で選び取った「ベストな選択」だと胸を張って語ります。
働き始める前の状況と悩み
「夢を追っている自分にとって、それは“別の人生”みたいな感じ」と、社会の一般的な働き方やキャリア形成に対して距離を感じていた岡野さん。10年近く続けたコンビニの夜勤アルバイトは、深夜帯の時給が良いという理由で効率的だと考えていましたが、その代償として睡眠時間は不規則になり、健康面で負担をかけていたことは否めません。
経済的な不安は常に付きまといました。最低限の生活費を稼ぐので精一杯で、時には「病気になったら終わり」という漠然とした恐怖を抱えていたといいます。また、将来のビジョンが持てないこと自体が、彼にとって大きな不安要素でした。夢を追いかける一方で、現実の厳しさに直面し、精神的な疲弊も蓄積していた状況がうかがえます。
転機と行動
そんな岡野さんに転機が訪れたのは、30歳の時でした。きっかけは、意外なところから飛び込んできた情報。「バンド仲間の一人が介護派遣で働き始めたんですよ。『意外といいぞ』って聞いて」。半信半疑ながらも自ら介護派遣について調べてみると、夜勤ではなく日勤で働けること、そして週3〜4日勤務も選択できることを知り、「これなら音楽と両立できるかも」と可能性を感じたそうです。
しかし、未経験の介護職への挑戦には大きな不安が伴いました。「めちゃくちゃありました」と語る通り、介護の大変そうなイメージから躊躇する気持ちも。しかし、ウィルオブワークの担当者による丁寧なヒアリングと、「音楽活動と両立したい」という彼の希望への理解が、大きな安心材料となったと振り返ります。
現在の勤務先を選んだ決め手は、家から自転車で通える距離だったことと、時給の良さでした。さらに、初心者向けの研修が用意されていると聞き、「ここなら自分でもやっていけるかも」と、一歩踏み出す決意を固めたのです。
現在の業務と働き方
実際に介護の現場で働き始めてからの日々は、決して楽なものではありませんでした。「最初は、正直しんどかったです。入浴介助とか、体力的にも精神的にも慣れないことばかり」。しかし、先輩スタッフの根気強い指導のおかげで、徐々に業務をこなせるようになり、今では利用者さんの表情から体調の変化に気づけるまでになったと話します。
岡野さんの1日の主な業務内容は以下の通りです。
9:30 出勤・申し送り確認
まずは前の夜勤スタッフからの申し送りを確認し、その日のご利用者の体調や注意点を把握します。必要に応じて看護師や他職種とも情報を共有し、スムーズなケアにつなげます。
10:00 介助業務・入浴サポート
ご利用者の排泄介助やおむつ交換、入浴の介助を行います。一人ひとりのペースに合わせ、安全・安心を心がけながら丁寧に対応しています。
12:00 昼食介助
ご利用者の昼食の介助や見守りを行いながら、食事の様子や摂取量を記録します。
13:00 休憩
介助が落ち着いたら、自分の休憩時間を取り、同僚と談笑したり、軽く外に出て気分転換をすることもあります。
14:00 レクリエーション準備・実施
午後はレクリエーション活動や個別対応の時間。体操や歌、季節に合わせた工作などを企画・実施します。
15:30 おやつ・ケア記録入力
おやつの配膳・介助を行った後、その日のケア内容や気づいた点をタブレットや記録用紙に入力します。
17:30 業務終了・退勤
夕方の申し送りを済ませ、夜勤スタッフに引き継ぎを行ったら、その日の業務は終了。ロッカーで着替えて退勤します。
介護の仕事でやりがいを感じるのは、利用者さんからの温かい言葉をもらった時だそうです。
「『あなたがいると安心するわ』と言ってもらえたときは、嬉しかったですね。自分がちゃんと役に立っている、必要とされているんだって実感できて」。この喜びは、「音楽ではなかなか得られなかった種類の達成感」だと語ります。
もちろん、大変なこともあります。「身体的な負担はありますし、認知症の方との接し方にはまだまだ勉強が必要です」。それでも、「そういう一人ひとりと向き合うことで、人としての器が広がってる感じがします」と、困難な側面も自身の成長の糧として捉えています。
働き方の変化 Before / After

Before(コンビニの夜勤アルバイト時代)
働き方:夜勤がメイン。「食いつなぐため」の手段で、健康面への負担も大きかった。
生活スタイル:睡眠時間がバラバラで不規則。夜勤中心で不規則な生活を送っていた。
収入:家賃や食費、ギターの弦代で常に「カツカツ」。病気になったら終わりという不安、将来のビジョンが持てない不安を抱えていた。
キャリアに対する気持ち:「ちゃんとした働き方」や「キャリア」は「自分には関係ない世界」だと思っていた。仕事は「音楽以外は全部手段」と考えていた。周囲の変化に焦りを感じていた。
After(介護職)
働き方:体力的・精神的な大変さはあるものの、利用者さんとの深い関わりの中で「役に立っている」実感を持ち、人間的な成長も感じている。
生活スタイル:生活リズムが整った。昼間働いて、夜はスタジオやライブっていうサイクルができて、身体も心も楽になった。
収入:「収入も安定してきたので、楽器や機材にも少し投資できるようになったし、友達と飲みに行く余裕も出てきました(笑)」。経済的な余裕が生まれ、生活の質が向上した。
キャリアに対する気持ち:人のために働くこと自体に価値を感じられるように。「自分が変わったのは、介護という仕事とちゃんと向き合ったからだと思います」。派遣は不安定ではなく自由で可能性のある働き方と捉え、自分にとって「ベストな選択」だと感じている。
これからの目標・展望
介護職として働く中で、岡野さんの目標はさらに明確になっています。
直近の目標は、介護福祉士の資格を取得すること。その後は、派遣社員として働き続けながらも、「ゆくゆくは福祉×音楽のような取り組みもしてみたい」という展望を語ります。例えば、施設での音楽セラピーなど、「自分の経験を活かせることがきっとあると思う」と、新たな可能性を探しています。
派遣という働き方に対する彼の認識も大きく変わりました。「『不安定』というより、『自由で可能性のある働き方』だと思っています」。「もちろん、正社員にはない部分もあるけど、自分に合ったペースで働ける。今の自分にとって、ベストな選択だと胸を張って言えます」と、自信を持って語る姿が印象的です。
最後に、岡野さんが大切にしている働き方や価値観について聞きました。「“誰かの期待に応える人生”より、“自分に嘘をつかない人生”を大切にしたいです」。そして、「夢を追うことも、社会で働くことも、どっちも大事。その両方を実現できる道が、今の派遣という働き方でした」。
「夢のために働く」のではなく、「働きながら夢を生きる」。岡野さんの言葉は、安定と自由、そして理想と現実の間で揺れ動く私たちに、自分らしいキャリアの選択肢が目の前にあることを教えてくれます。
※本記事に登場するスタッフのお名前は仮名、写真はAIによるイメージ画像です。実際の取材内容に基づき構成しています。