将来への漠然とした不安を抱えながら、フリーター生活を長く続けていた井ノ原俊太さん(30歳)。特別なスキルもなく、「どうせ自分には無理だ」と正社員への道を諦めかけていたといいます。そんな中で出会ったのが、派遣という働き方でした。
ウィルオブ・ワークを通じてコールセンターでの派遣勤務を経験した後、現在はIT企業でエンジニアとして働いている井ノ原さん。今回は、そこに至るまでの道のりと、働く中での心境の変化についてお話を伺いました。
目次
プロフィール紹介
- お名前(仮名): 井ノ原 俊太(いのはら しゅんた)さん
- 年齢: 30歳
- 現在の職種: システムエンジニア(正社員)
- 勤務先: 都内IT企業(従業員約300名)
- 勤務年数: 1年
- これまでの職歴: コンビニアルバイト(約7年)→ コールセンター業務(約3年/派遣社員)→ 現職
これまでと今
大学を中退した井ノ原さんは、その後、地元のコンビニや居酒屋で約7年間フリーターとして働いていました。大きな不満はなかったものの、「年齢だけが進んでいくのに、何もスキルが身についていない」と気づいたとき、将来への不安が一気に大きくなったといいます。
正社員として働きたいという思いは心のどこかにありましたが、「飲食や接客業で正社員になるのは、なんとなく嫌だった」と井ノ原さんは振り返ります。「学生が多い職場で、自分だけ年齢的に浮いている感じがして…変なプライドですけど、“ちゃんと社会人してる”って見られたかったんです」
また、どこかで「やったことのない仕事に挑戦してみたい」という気持ちもあり、アルバイトの延長のような仕事ではなく、新しい働き方への関心が芽生えていったといいます。
ただ、フリーター歴しかない自分が就活しても、履歴書すら通らないことも多く、「どうせ落ちる」と思ってしまう時期もありました。
そんな状況の中で出会ったのが、「派遣」という働き方でした。はじめは「不安定」「腰掛け」といったマイナスのイメージがありましたが、ウィルオブ・ワークを通じて実際に派遣で働いてみると、自分に合った働き方を見つけられる柔軟さと、生活の安定が得られたと話します。
コールセンターでの3年間の派遣勤務を経て、現在はIT企業でシステムエンジニアとして正社員で勤務。「自分には何もできない」と感じていた日々から、「自身を持って社会人をやれている」と感じるようになった井ノ原さん。かつて抱えていた不安や自信のなさは、少しずつ変化していきました。
働き始める前の状況と悩み
フリーター歴が6年になった頃、「そろそろやばいかな…」と思い就職活動を始めました。正社員になりたいという気持ちはありつつも、履歴書すら通らず、いつしか自分には無理だと思い込んでいた井ノ原さん。
「いざ書類選考が通っても、“飲食か…”とか“接客業はな…”って、どこかで避けていた部分がありました。正社員になりたい気持ちはあるのに、自分で勝手に選択肢を狭めていたのかもしれません」
アルバイトの職場では年下の学生が多く、どこか気まずさを感じていたことも要因としてあったそうです。
「自分だけ“いつまでもバイトしてる大人”みたいに見られている気がして、嫌でした。だったら、ちゃんとスーツ着てオフィスで働いているような社会人になりたいって、変に格好をつけたかったんですよね」
転機と行動
そんな中、転機が訪れたのは26歳の春。就職情報サイトで「未経験歓迎」の求人を検索していたところ、派遣社員という雇用形態を知ったことがきっかけでした。
はじめて派遣という働き方を知ったときは、「正社員にはなれなさそうだし、仕方なく…」という感覚もあったそうですが、それ以上に未経験でも働けることに魅力を感じ、「新しいことをやってみたい」という気持ちが強かったといいます。
最初に選んだ派遣先は、大手通信会社のコールセンターでした。勤務地が家から近く、時給も1,500円と高かったことが決め手だったそうです。
「電話対応の仕事は初めてだったので不安はありましたが、“やってみないと分からない”と思って挑戦しました」
勤務初日はとても緊張していたそうですが、現場の先輩たちが丁寧に教えてくれたことで、少しずつ自信がついていきました。
コールセンターで2年半ほど働いたころ、井ノ原さんは「そろそろ正社員に挑戦したい」と考えるようになり、派遣元企業の担当者に相談を持ちかけました。そこで提案されたのが、キャリアコンサルタントとの面談でした。
「相談してみたら、思いがけず“システムエンジニアという働き方もある”と提案されたんです」と井ノ原さん。最初は驚いたものの、コールセンターでのITツール対応や情報管理の経験と親和性があること、未経験から挑戦できる研修カリキュラムがあることを知り、少しずつ関心が高まっていったといいます。
学習プログラムは、仕事終わりや休日に通える形式で、半年間の基礎研修が用意されていました。「本当に未経験でも大丈夫なのか不安でしたが、今の働き方を変えるためにやってみようと思いました」。そう語る井ノ原さんは、早速プログラムに申し込み、半年間の学習をやり遂げます。
修了後には、派遣元企業から紹介された未経験歓迎のIT企業の面接を受け、見事合格。昨年6月から、システムエンジニアとして新たなスタートを切ることができました。
現在の業務と働き方
約3年間の派遣期間を経て、井ノ原さんは現在、都内のIT企業で正社員のシステムエンジニアとして働いています。所属する会社はいわゆるSES(システムエンジニアリングサービス)の形態で、現在は客先常駐で、ITシステムの保守運用業務を担当しています。
主な業務は、顧客企業の基幹システムの監視や、トラブル発生時の初期対応、社内からの問い合わせへの対応など。運用ドキュメントに基づきながら、安定稼働を支える重要な役割を担っています。
1日の仕事の流れ:
9:00 出社・朝会参加
常駐先のチームメンバーとオンライン朝会を行い、前日のシステム稼働状況や当日の作業予定、注意事項などを共有
9:30 システム監視・ログ確認
監視ツールやアラート通知をチェックし、異常がないかを確認
11:00 問い合わせ対応・障害一次対応
ユーザー部門や社内IT担当者からの問い合わせに対応。パスワード再発行、アカウント権限の変更、簡単なシステム設定の変更なども行う
12:00 昼休憩
職場近くの飲食店に行ったり、休憩室でテイクアウトしたお弁当を食べてリフレッシュ
13:00 定常作業・業務改善対応
マニュアルに沿った定例作業(ログの取得、バージョン確認、バックアップのチェックなど)を実施
16:00 資料作成・レポーティング
障害や対応履歴のまとめ、業務報告書や稼働状況レポートの作成。次回以降の作業マニュアルに役立てるため、気づいた点や手順の見直しもドキュメント化しています
17:30 日報記入・引き継ぎ・退社準備
日報ツールに対応内容を入力し、チームチャットに進捗報告
18:00 退社
「トラブルを解決して『助かりました』と言ってもらえたときが、一番うれしいですね」
以前は「自分には何もできない」と思っていた井ノ原さんですが、今では「頼られる存在になっている」と実感できるようになったといいます。
「昔は、“ちゃんとスーツを着てオフィスで働く社会人”に漠然とした憧れがありました。実際にはスーツを着ているわけではないんですけど、それでも少しは理想に近づけているのかなって感じています。毎日、“ちゃんと社会人してるな”と思えることが、今はすごくうれしいです」
そして最近、初めてのボーナスを受け取ったときには、強く達成感を覚えたそうです。
「正直、金額よりも“自分もやっとここまで来られた”っていう実感の方が大きかったですね」
働き方の変化 Before/After

Before(フリーター時代)
- 働き方:シフト制のアルバイト勤務。仕事自体に大きな不満はなかったが、スキルが身につく実感は少なく、同じような日々の繰り返しだった
- 気持ち:焦りや不安を抱えながらも、「どうせ自分には無理」という閉塞感と無力感に包まれていた
- キャリア観:「正社員なんて無理」と自分で可能性を狭めてしまっていた。履歴書もなかなか通らず、将来の道筋が見えなかった
- 仕事への考え方・やりがい:仕事に大きな目的意識は持てず、「誰にどう見られているか」が気になっていた。ちゃんとした社会人になりたいという漠然とした願望があった
After(派遣社員(法人営業職)での働き方)
- 働き方:派遣でコールセンターに約3年間勤務。その後、キャリア支援と学習を経て、現在はSES企業で保守業務を担当するシステムエンジニアとして常駐勤務
- 気持ち:自分に自信が持てるようになり、「ちゃんと社会人している」と日々実感できるようになった。過去の自分と比べて、確かな前進を感じている
- キャリア観:「派遣は人生の助走期間だった」と振り返るように、ステップアップの足がかりとして活用。将来の展望を持ち、今は開発分野への挑戦も視野に入れている
- 仕事への考え方・やりがい:感謝される瞬間に最もやりがいを感じている。かつての「憧れていた社会人」に近づけている。スキルを身につけ、より必要とされる存在になりたいと前向きに取り組んでいる
これからの目標・展望
現在の職場で働き始めて1年。井ノ原さんは、これからも自分なりのペースで着実にスキルを身につけていきたいと考えています。
「まずは今の環境で、より多くのエンジニアの知識を習得して、保守以外の業務にもっと関われるようになりたいです」
将来的には、開発業務にもチャレンジしていきたいとのこと。勉強を重ねながら、ゆくゆくはより専門的な領域にも踏み出していけたらと考えています。
「自分の場合、“一気に成長”って感じではなくて、コツコツ型なんです。でも、あのとき派遣という形で働き始めたことで、こうして少しずつ道が開けていきました。今振り返ると、本当に“助走期間”だったと思います」
もし派遣という選択肢を知らなかったら、きっと今も何をすればいいか分からず、フリーターとして同じ場所に立ち止まっていたかもしれない——そんな風にも感じているそうです。
「派遣は“ゴール”じゃないけれど、“踏み出すきっかけ”には十分なれると思います。迷ってばかりいた自分でも、変われたので。まずは動いてみることが、一番のスタートなんじゃないかなって思います」
※本記事に登場するスタッフのお名前は仮名、写真はAIによるイメージ画像です。実際の取材内容に基づき構成しています。