派遣社員でも残業代は出るの?計算の仕方や未払金の請求方法について

派遣社員は残業がないイメージを持たれがちです。しかし実際には、仕事が忙しくなると残業せざるを得ないこともあります。その場合、きちんと残業代は出るのでしょうか。 

派遣社員として安心して働くためには、残業に関してどのような規定があり、残業代がどう支払われるのかを知っておく必要があります。この記事では、派遣社員の残業や残業代について詳しく解説していきます。

派遣契約の仕組み

 

残業や残業代について考える前に、まず派遣社員と派遣会社、派遣先企業の関係をおさらいしておきましょう。 

正社員や契約社員、パート、アルバイトであれば、実際に働く企業と雇用契約を結びます。しかし派遣社員の場合は、雇用契約を結ぶ先と実際に働く企業が異なるのが特徴です。派遣社員の直接の雇用先は派遣会社であり、賃金や残業代は派遣会社から支払われます。 

ただし、業務の指揮命令権を持っているのは派遣先企業です。その仕組みをしっかり理解しておかないと、後々になってトラブルに発展することがあります。派遣先企業が独断で残業を指示したとしても、残業代を支払うのはあくまでも派遣会社です。事前に派遣会社との間で取り決めがなければ、残業代が出ないケースもあるので注意しましょう。 

派遣社員でも残業代はきちんと支払われる 

労働基準法では、法廷労働時間(休憩時間を除いた実労働時間)を原則として18時間、1週間で40時間までと定めています。この時間を超えて働いた時間は「残業」と見なされ、企業に残業手当を請求することができます。派遣社員であっても、このルールはもちろん適用されるので安心してください。 

残業代の計算方法 

労働基準法では、原則的に1日8時間、週40時間を超えて働く場合、通常の25%以上割増で賃金を支払うことが義務付けられています。同じく、22時から翌5時までの深夜労働の場合も割増率は25%です。したがって、時間外労働と深夜労働が重なったケースでは、割増率は50%になります。 

大まかな残業代は次の計算式で算出できます。 

1時間あたりの賃金(時給)×1.25(割増率)×残業時間 

たとえば、派遣社員Aさんの契約内容が「勤務時間9:00〜18:00(休憩1時間)、時給1,000円」とします。
9:00〜19:00まで働いた場合に支払われる賃金について考えてみましょう。 

9時から18時までは実働8時間以内なので、通常の時給になります。18時から19時までの1時間は「8時間を超える労働=残業」になるため、Aさんに対して25%割増で支払われなければなりません。よって、下記の金額となります。 

09:00〜18:00 →1,000円×1.0×8h=8,000円
18:00〜19:00 →1,000円×1.25×1h=1,250円 

合計9,250円 

すべての残業代が割増料金になるかどうかは、派遣会社によって異なります。雇用契約を結ぶ前に、派遣会社の担当者へ確認しておきましょう。 

知っておきたい労働時間に対する考え方 

勤務時間は大きく分けて「法定労働時間」と「所定労働時間」があります。この2つは必ずしも一致するとは限りません。残業代を正確に計算するために、これらの違いをきちんと把握しておくことが大切です。 

法定労働時間 

法定労働時間は、労働基準法によって「1日8時間、1週間で40時間まで」と明確に決まっています。基本的に、この時間を超えて社員を無償で働かせることは違法です。企業側は労働者に対して、超過分の残業代を支払う義務が生じます。 

所定労働時間  

所定労働時間とは、企業が取り決めた1日あたりの労働時間のことです。法定労働時間内であれば、企業側が自由に設定することができます。 

たとえば、9時から17時までの勤務で1時間の休憩がある場合、所定労働時間は7時間になります。この例で1時間の残業が発生したとすると、法定労働時間の8時間以内に収まるため、割増料金は発生しません。通常の賃金が支払われることになります。 

例)契約内容が「勤務時間9:0017:00休憩1時間)、時給1,000円」のBさんの場合 

Bさんが1時間残業をして18時まで働いたとします。17時から18時までの間は、所定労働時間から考えると事実上「残業」に該当します。しかし、法律上では8時間を超えないため割増料金にはならず、支払われる金額は通常の時給と同じです。 

09:00〜17:00 →1,000円×1.0×7h=7,000円
17:00〜18:00 →1,000円×1.0×1h=1,000円 

合計8,000円 

ただし、就業規則や雇用契約書に「所定労働時間を超えたら割増賃金を払う」といった定めがあれば、法定労働時間内でも残業代を支払う必要があります。トラブルを未然に防ぐため、前もって契約書の内容を確認しておきましょう。 

休日出勤について 

さらに国が定める休日労働に対しては、35%の割増料金を支払う義務があります。休日労働と深夜労働が重なった場合の割増率は60%です。 

なお、労働基準法では「週に1回の休日」または「4週間に4日の休日」を与えなければならないと義務付けられており、この休日を「法定休日」と呼びます。つまり、法律で定められている休日は「週に1日」のみなのです。現在、多くの企業では週休2日を取り入れていますが、そのうち1日は「法定休日」となり、もう1日は法の定めのない「法定外休日」になります。 

多くの人が勘違いしがちですが、割増料金が発生する「休日」はあくまでも「法定休日」のみであり、いくら「法定外休日」に働いても休日出勤にはならないのです。土曜日に出勤して日曜日に休んだ場合は、休日出勤ではなく、週に40時間を超過した「時間外労働」として扱われます。 

例)契約内容が「勤務時間9:0018:00休憩1時間)、時給1,000円」のCさんが月〜日までフル出勤した場合 

1.月曜〜金曜日まで
09:00〜18:00 →1,000円×1.0×8h=8,000円
8,000円×5日=40,000円(週40時間の労働) 

2.土曜日出勤
週40時間を超えた労働につき、時間外労働の割増料金25%が発生
09:00〜18:00 →1,000円×1.25×8h=10,000円 

3.日曜出勤
法定休日につき、休日出勤の割増料金35%が発生
09:00〜18:00 →1,000円×1.35×8h=10,800円 

したがって、1週間の賃金の合計金額は 60,800円になります。 

なお、法定休日で8時間を超えて働いた場合、普通に考えれば35%+25%=60%の割増賃金になりそうです。しかし、労働法ではこの2つの加算は認められていません。上記の例では日曜日に18時以降働いたとしても35%の割増率で計算することになります。 

4.日曜出勤で8時間を超えて働いた場合 

09:00〜19:00 →1,000円×1.35×9h=12,150円 

派遣社員が時間外労働を行うには「36協定」が必要 

派遣社員が時間外労働を行うには、あらかじめ派遣会社と「36(サブロク)協定」を締結しておく必要があります。36協定とは、正式には「時間外・休日労働に関する協定届」といい、労働者に残業や休日労働をさせる場合に届け出なければならない書類です。 

36協定を結んでいない派遣会社は、派遣社員に残業をさせることはできません。つまり、36協定を締結していなければ、いくら残業をしても残業代は支払われないことになります。協定が結ばれていないにも関わらず派遣先で残業を命じられた場合は、派遣会社の担当者へ相談しましょう。 

「残業あり」の契約でも派遣社員は残業を断れる? 

派遣社員と派遣会社の間で36協定が結ばれていれば、企業は派遣社員に残業を命じることができます。ただし、契約で取り決められた時間以上の残業は断ることが可能です。 

契約書に「残業は1日につき何時間まで、1ヶ月につき何時間まで」と記載されているので、就業する前にチェックしておきましょう。また、育児や介護などの正当な理由がある場合、企業は派遣社員へ強制的に残業させることはできません。 

しかし、単に「残業したくない」という理由で残業を断るのは難しいでしょう。どうしても外せない用事があるときや体調不良でない限り、柔軟に対応することが大切です。 

未払いの残業代を請求する方法 

派遣社員の残業代を支払うのは、派遣会社です。未払いの残業代がある場合、派遣会社に請求することになります。派遣先企業には請求できないので注意してください。未払いの残業代を請求する方法として、次の2つがあります。 

派遣会社へ直接請求する 

残業代が支払われない場合、自分で直接派遣会社へ請求しましょう。残業代を請求するにあたって、残業を証明できる証拠があることが重要なポイントになります。タイムカードや業務請負日誌など、出退勤時刻を記録したものをできるだけ手元にとっておきましょう。 

請求書を送る際には、通常の郵便よりも、郵便物の内容を郵便局が公的に証明してくれる「内容証明郵便」を利用したほうが、証拠としての価値が高まります。 

労働基準監督署に相談する 

内容証明書を送付しても派遣会社が未払金の支払いに応じない場合、労働基準監督署に相談するという選択肢があります。残業代の未払いは労働基準法違反です。所轄の労働基準監督署に相談すれば、立ち入り調査や是正勧告などのアクションを起こしてくれるでしょう。 

まとめ 

派遣社員であっても「1日8時間、1週間に40時間以内」とされている法定労働時間を超えて働けば、当然ながら残業代が支給されます。残業時に発生する賃金は25%の割増率で支払われるのが基本です。 

ただし、派遣社員が時間外労働を行う際には、事前に派遣会社と「36協定」を締結しておく必要があります。この協定を結んでいなければ、たとえ残業をしてもその分の賃金は支払われないので注意しましょう。 

きちんと契約を交わした上で時間外労働をしたのにも関わらず、その分の賃金が支払われないのであれば、それは法令違反となります。残業代の不払いがある場合、派遣会社へ直接請求しましょう。もしものときに備えて、日頃から残業を証明する証拠を集めておくことが大切です。 

内容証明書を送付しても派遣会社が支払いに応じないのであれば、労働基準監督署に相談することで解決に至る可能性が高まります。労働に対する正当な対価を得るためにも、普段から派遣社員の残業や残業代の仕組みをきちんと理解しておきましょう。 

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