2024年度の最低賃金が発表され、東京・愛知・大阪など16都道府県が1,000円を超えると話題になっています。
この最低賃金とは時給の金額で、時給1,000円と聞くと結構良い金額となります。
ほかの地域も増額傾向にあり、時給制で働く人にとってはやる気が向上するニュースです。
ですが、最低賃金が上がることは良いことだけではありません。正社員として働く人や企業側など、多方面でも問題が出てきてしまうのです。
そこで、今回は最低賃金についての基礎や最低賃金が上がることで出てくる問題について解説していきます。改めて賃金について見直していきましょう。
目次
最低賃金とは?
そもそも最低賃金(最賃)とは何か。
最低賃金を決めるのは国であり、働く上で支払われる賃金の最低額を言います。最低賃金は毎年10月に順次変わるのでこのタイミングで最低額を下回っていないか確認をしましょう。
最低賃金が変わることで一番影響される人は、時給制で仕事をすることが多いアルバイトやパートなどの非正規雇用の人です。もし、時給がこの最低賃金を下回っていた場合には、最低賃金との差額分を雇い主に請求することができます。
ですが、雇い主に直接請求することに気が引けてしまう…という人もいるかもしれません。そういった場合にはこの後の項目にある「もし最低賃金より低かったら?」で対処法を説明しています。ぜひご覧ください。
最低賃金に含まれるものは?
実は、最低賃金には対象となる賃金とそうでない賃金があるのです。
大まかな考え方として、臨時で支払われるものや変動がある賃金に関しては最低賃金の対象外となる場合があります。
具体的に言えば、賞与や結婚手当、交通費、残業手当、深夜勤務手当などが対象外とされています。ほかにも細かく分類されているので、詳しくは厚生労働省HPにある「最低賃金の対象となる賃金」をご覧ください。
最低賃金が1,000円以上になることによる問題
時給が増えることは雇ってもらう側からすれば嬉しいことです。しかし、これによって発生する問題もあります。どういった問題なのか、説明をしていきます。
正社員の不満が出てくる
長く勤めていた正社員からしてみれば、突然入社してきた非正規雇用の人と変わらない給料だったら不満を感じてしまうかもしれません。
さらに、2020年4月からは同一労働同一賃金も施行されています。このことにより、正規雇用の賃金を下げて非正規雇用の賃金を上げることで格差を減らす対応に出られてしまったら素直に納得はできないでしょう。このあたりの対策もしっかりしなければなりません。
人件費がかかる
今まで低かった賃金が上がったことにより、人件費がかかります。とくに、コンビニなどの非正規雇用を多く雇っている企業にとっては大きな問題になる場合があります。
企業側の対策としては人件費削減のために人員を減らすなどの対応をする可能性が出てきます。
ですが、そうなってしまうと、削減した分を残った社員で分担しなくてはならず、社員の負担が大きくなることで仕事が回らなくなってしまうと深刻な問題に発展するかもしれません。
非正規雇用の働き口が減る?
上記問題につながってくる内容ではありますが、企業側は人件費がかかることにより、より良い人材と求めるようになります。
そうなると、非正規雇用の採用が減ってしまうかもしれません。そうなると、せっかく賃金が上がったにも関わらず、仕事に就けない人が増加する恐れがあります。
地方の仕事が減る
2024年10月から順次適用される最低賃金で、1,000円を超えるのは東京・愛知・大阪を含む16都府県です。そうなると、働く人はより多く稼ぎたいと地方から最低賃金が高い地域へ出てしまい、人口の偏りが出てくるかもしれません。
人口が減ってしまう地方では働き手も足りなく、廃業となってしまう企業が出てきてしまう場合もあります。働き手が減ってしまった場合、地方への対策も考える必要が出てきます。
最低賃金の計算方法
時給制の人であれば、今の時給と最低賃金を見比べればわかりますが、月給制の場合は一度時給計算をしなくてはなりません。
計算の方法は意外と簡単で、最低賃金に含まれない手当や賃金を抜いたものを時給に換算すれば、実際にもらっている時給がわかります。
月給制の計算方法
月給258,000円の人の場合を見ていきます。
・基本給:190,000円 ・職務手当:20,000円 ・通勤手当:8,000円 ・時間外手当:40,000円 | ・月間労働日数:20日 ・労働時間/日:8時間 ・最低賃金:1,113円 |
合計:258,000円 |
給料の詳細はこのようになっています。
まず、手当で最低賃金に含まれないものを引いていきます。
今回、この中で含まれないものは「通勤手当」「時間外手当」になります。この2つを引いた計算をすると…。
258,000円-(8,000円+40,000円)=210,000円
このようになります。
さらに、この金額を時給に換算します。今算出した金額は月給額となるので、一度日給の金額を出し、そこから時給の金額を算出していきます。
※小数点以下切り捨て
210,000円÷20日=10,500円(日給)
10,500円÷8時間=1,312円(時給)
計算式より出された時給は1,312円となり、最低賃金を上回っているため、この場合は適正の給与が支払われていることになります。
みなし残業を含む場合
月給を見てもらいましたので、今度はみなし残業を含んだ場合の計算を見ていきましょう。
みなし残業とは、月に一定の残業があると決まっている場合に初めからその分の残業代を固定給に入れておく労働契約ことです。
このみなし残業も時間外手当に該当するので、固定給から外します。実際に計算をしてみましょう。
・基本給:270,000円(40時間分のみなし残業代含む) ・職務手当:20,000円 ・通勤手当:8,000円 | ・月間労働日数:20日 ・労働時間/月:160時間 ・最低賃金:1,113円 |
合計:298,000円 |
まず、40時間分のみなし残業代を基本給から引きます。最低賃金に含まれないものの計算方法は月給計算と同じなので省略します。
290,000円÷160時間×1.25×40時間=90,625円(みなし残業代)
270,000円-90,625円=179,375円(残業代抜いた基本給)
179,375円÷160時間=1,121円(時給)
このように計算されます。
今回の場合、時給は1,121円となり、最低賃金を上回っているので適正の給与が支払われていることになります。
みなし残業代の計算で分かるように、残業代が多いこともあるので、本来の基本給が意外と少ない場合があるのです。こうしたときに、もしかしたら最低賃金を割ってしまっている可能性があります。
月給制だからと安心はせず、今回の計算式を参考に一度計算してみてはいかがでしょうか。
もし最低賃金より低かったら?
自分の給与が最低賃金を下回っていた場合はどう対処すればいいのか。直接会社に言うというのも一つの手段ですが、そうなると会社とのトラブルに発展してしまう場合があります。
そこで、一度「労働基準監督署」へ相談することをおすすめします。
この労働基準監督署(労基署)とは、労働基準法などに基づき企業の監督を行う厚生労働省の出先機関です。
ほかにも、法律違反行為があった場合には行政指導や捜査も行います。
労働基準監督署は、労働者にとってより良い職場環境を守るために必要な機関なのです。
また、最低賃金に関することだけでなく、不当な解雇などに関する相談、パワハラ・セクハラなどのハラスメント行為の相談なども受け付けています。
もし、会社へ直接言うことが怖い、会社に言ったことでクビになるかもしれないといった不安がある場合に是非一度利用してみてください。匿名でも受け付けてもらえます。
労働基準監督署は全国にありますので、相談をされる際には「全国労働基準監督署の所在案内」より対象の機関へ連絡をしてください。
※利用時間は平日8:30~17:15まで
最低賃金の減額がされることもある
最低賃金は国が定めた支払うべき賃金の最低額と言いましたが、実は、最低賃金よりも下回っていても違法にならない場合があります。それは「最低賃金の減額の特許許可」がある場合です。
これは、一般労働者より労働能力が低い場合に、都道府県労働局長から許可が出れば個別で最低賃金の減額が特例で認められることを言います。
ですが、ただ単に「仕事ができない」といったものではなく、以下の条件に当てはまる人に対して適用されるものです。
- 精神または身体の障害によって労働能力が低い人
- 試用期間中の人
- 基礎的な技能などの認定職業訓練を受ける人のうち、厚生労働省令で定める人
- 軽易業務を行う人
- 断続的に労働する人
特例条件や申請の仕方などの詳しいことに関しては先ほど紹介しました労働基準監督署か「都道府県労働局労働基準部賃金課室」に問い合わせてください。
まとめ
最低賃金は毎年変わる場合もありますので、変わる時期や転職の際にこの辺りに注目するのも仕事探しの目安になるかもしれません。
また、今回のことで最低賃金アップは喜ぶことばかりでなく、逆に問題となる点もあることがわかりました。この問題に対し、今後労働環境がどのように変わっていくのかにも注目し、労働力に見合った報酬を受けられるようにしましょう。
【参考サイト】