「働き方改革」が叫ばれている中、日本の労働を取り巻く環境は大きく変化しています。年功序列や終身雇用を軸とする「正社員の安定神話」は崩壊しつつあり、多様な雇用形態が存在する時代になってきました。
今回は、働き方改革とそれに伴う関連法案を踏まえた上で、派遣としての働き方についてわかりやすく解説します。この機会に、自分らしく働くことについて改めて考えてみましょう。
目次
「働き方改革」で多様化する日本人の働き方
「働き方改革」とは、2016年に政府が打ち出した経済政策の1つです。メディアでも大きく取り上げられていますが、そもそもどんな取り組みなのでしょうか。
働き方改革の背景にあるのは、日本が直面している少子高齢化の問題です。このまま少子高齢化が進めば、労働者不足による経済の衰退や社会保障制度の破綻など、悲惨な状況を避けて通ることはできません。そうした問題の解決に向けて、老若男女や障がい、難病の有無を問わず、誰もが活躍できる「一億総活躍」社会の実現が求められます。
かつての日本社会では、仕事に全人生を捧げることを美德とする価値観が浸透していました。しかし今後、働き方改革が進むことで、それぞれの事情に応じた多様な働き方が実現可能になるでしょう。
派遣ってどんな働き方なの?
働き方の多様化が進む昨今、正社員以外の労働者の割合は急激に増えています。平成29年のデータによると、非正規労働者のうち派遣社員として働くのは約134万人といわれています。では、派遣社員とはどのような働き方なのでしょうか? 他の雇用形態とはどう違うのか、ここで詳しくみていきましょう。
雇用形態
派遣社員とは、派遣会社と雇用契約を結び、そこから紹介された企業で働く労働者のことです。派遣社員になると派遣先の指示のもとで働くことになりますが、実際に給料を支払うのは雇用元である派遣会社になります。一方、正社員や契約社員、パート、アルバイトなどの場合は、企業と直接雇用契約を締結して働くことになります。
しかし、一口に派遣といっても、いろいろな種類があります。同じ派遣でもワークスタイルが異なるので、違いをチェックしておきましょう。
登録型派遣
一般派遣ともいわれ、派遣人口の約8割を占めます。派遣会社から仕事を紹介され、派遣先企業が決まった期間のみ雇用契約が発生します。あらかじめ雇用期間が定められており、だいたい3ヶ月ごとに更新を繰り返すことが多いようです。更新され続ければ、同じ職場において最長3年まで働くことができます。
常用型派遣
派遣会社と期限を設けず雇用契約を結び、派遣先で働く雇用形態です。派遣先での就業期間が終わっても派遣会社との契約関係が継続するため、給料は引き続き支払われます。派遣会社の社員という扱いになるので、給料は月収制でボーナスや昇給などの待遇を受けることができます。
無期雇用派遣
無期雇用派遣とは、法改正をきっかけに新たに生まれた派遣の形です。2012年に施行された改正労働契約法により、有期契約を更新して5年を超えた場合、期限の定めのない契約へ転換できるようになりました。「無期雇用派遣=正社員登用」ではありませんが、派遣会社と無期雇用契約を結んでいるという意味では、常用型派遣に当てはまります。
紹介予定派遣
紹介予定派遣とは、派遣契約終了後に正社員や契約社員など、直接雇用を前提として一定期間(最長6ヶ月)派遣社員として働くシステムです。お試し期間があるので、採用後のミスマッチが起こりにくいメリットがあります。ただし、必ずしも直接雇用に結びつくわけではなく、期間満了後に契約終了となる場合もあります。
新卒派遣
新卒派遣とは言葉のとおり、新卒で派遣社員になることを指します。最近では、新卒で就職先が見つからなかった場合の選択肢の1つとして注目を集めています。派遣会社でビジネスマナーやスキルが身につく研修を受けられるため、就職浪人してフリーターになるよりも多くのメリットを得られるでしょう。
勤務形態
派遣といえば、正社員のようにフルタイムで働くものといった印象があるかもしれません。そのため、主婦や学生が育児や勉強のかたわらで働くには、パート・アルバイトといった選択肢しかないと考えている人も多いようです。しかし実際のところ、派遣であってもフルタイムかパートタイムを自由に選べます。勤務期間や日数などの条件も選択できるので、柔軟な働き方が可能です。
派遣社員として働くメリット
ライフスタイルに合わせて働ける
自分のライフスタイルや希望条件に合わせて自由に仕事を選べることが、派遣の最大のメリットです。「フルタイムでバリバリ仕事をしたい」、「自分の時間を大切にして育児や介護と両立したい」など、個人の事情に合わせて理想的なワークスタイルが見つけられます。
給与が高い
派遣社員の給与は、時間単位で支払われることがほとんどです。そして、同じ時給制のパートやアルバイトと比べると専門性の高い仕事も多く、給与が高めに設定されている傾向があります。働いた分だけしっかり稼げるので、正社員並みの収入を得ることも可能です。
憧れの企業で働ける
既卒やパート・アルバイトから正社員として入社するのが難しい企業でも、派遣社員としてなら働くことができます。憧れの大企業や外資系企業などで働くチャンスが広がるでしょう。
サポート体制が充実している
正社員や契約社員などの直接雇用の場合、仕事上の悩みや不安があっても、なかなか打ち明けづらいものです。しかし派遣社員であれば、派遣先でトラブルや悩みが生じても、派遣会社の担当者に相談できるので安心です。派遣先に直接言いにくいことがあれば、派遣会社が間に入ってサポートしてくれます。
派遣として働くデメリット
就業期間が決まっている
2015年9月に発表された労働者派遣法改正によって、派遣労働者が同じ派遣先で就業できるのは3年までと定められました。これがいわゆる「3年ルール」です。そのため、せっかく職場を気に入っていても、新しい職場に移る必要があります。
ボーナスや交通費が支給されない
一般の派遣社員は、ボーナスや交通費は支払われないケースがほとんどなので、正社員などに比べると待遇差に不満を感じることもあるでしょう。
仕事の範囲が限られている
派遣社員は、業務の範囲があらかじめ雇用契約で決められています。責任を負わなくていい気楽さがある反面、自分の能力を最大限に発揮できないことに物足りなさを感じることがあるかもしれません。
労働法の改正で変わる「派遣のルール」
働き方改革関連の労働者派遣法の改正で、将来的にますます派遣社員の待遇が改善される可能性が期待できます。今後の動向に着目しておきましょう。
雇用期間の見直し
これまで一般的な人材派遣は、最長3年の上限が設けられていました。そのため、3年を超えて働き続けたい場合は、部署異動をするか、直接雇用される必要がありました。ところが、平成25年(2013年)に労働契約法が見直され「有期雇用が5年継続した場合、本人が希望すれば無期雇用の申し込みができる」ようになりました。この新しいルールによって、有期雇用から安定した無期雇用に転換できる可能性があります。
同一労働同一賃金
正規と非正規労働者の待遇格差の解消を図るため、「同一労働同一賃金」に向けた動きが進んでいます。これは、同じ仕事をしているのであれば同じ給与が支払われるべきという考え方です。派遣社員であっても、将来的にボーナスや交通費が支払われるようになる可能性があります。
キャリアアップ措置
2015年の派遣法改正に伴い、派遣労働者に対するキャリアアップ措置が義務付けられました。今後、スキルアップを目的とした教育研修やキャリア・カウンセリングを受けられる機会が増えるでしょう。自分の能力を上げることは収入アップや昇給につながりますし、会社にとっても優秀な人材が増えるというメリットがあります。
まとめ
これまで正社員といえば、絶対の安定感がありました。ところが、今や「正社員=安定」の図式は成り立たない時代です。働き方の多様化が進む中、派遣社員の柔軟で自由なワークスタイルが注目を集めています。派遣社員には他の雇用形態と同様、メリット・デメリットがあるのも事実ですが、労働者派遣法の改正によって、いくつかのデメリットが改善される可能性も期待できます。こうした動きは、社会における派遣社員への期待の証かもしれません。派遣社員への期待は今後ますます高まっていくことでしょう。
参考サイト: